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世界屈指の文化芸術都市・京都を舞台に開催される、日本では数少ない国際的な写真祭「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2020」。第8回目を迎える本展は「VISION」をテーマに、目に見えるものだけでなく、想像して見ることも含蓄。多様な視点によって作られたVISIONが集められており、「一人ひとりが世界の問題を『他人ごと』ではなく『自分ごと』として考えることができたとき、世界は必ず変わる」と、KYOTOGRAPHIEの共同創設者/共同ディレクターであるルシール・レイボーズと仲西祐介は述べています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的拡大により、本展も大打撃を受け、かつてない危機に瀕しました。クラウドファンディングで資金を調達した結果、ようやく開催の運びとなりました。
本展は、2020年9月19日(土)から10月18日(日)まで、10のメインプログラムが、京都の歴史ある建物や町家、ギャラリーなど14の会場で開催中です。今回は、中でもおすすめのアート作品を7点ピックアップします!
■1.オマー・ヴィクター・ディオプ/《MASU MASU MASUNAGA》
鴨川の三角州(鴨川デルタ)に近い立地の、昔ながらの風情が程よく残る「出町桝形商店街」では、セネガル出身のアーティストであるオマー・ヴィクター・ディオプの作品《MASU MASU MASUNAGA》を鑑賞することができます。
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本作品は、出町桝形商店街の商店主たちを被写体とし、その店の商品などをいくつか選んで一緒に撮影したコラージュ作品。何でも、去年の秋にディオプが京都に10日間滞在してポートレートを撮影し、セネガルに戻ってからPCを使ってポップな作品を完成させたそう。その巨大プリントが、町桝形商店街のアーケードに20点、吊るして展示されています。
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また、カフェ、ギャラリー、宿泊施設を併設するKYOTOGRAPHIE初の常設スペース「DELTA」が、この商店街にオープン。
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鴨川デルタから名付けられたDELTAの誕生に関して、「文化的な活動から、経済的な活動へと繋がりを持たせたい」と仲西は言及しています。このスペースにも、ディオプの同商店街での撮り下ろし作品、そしてそのメイキング動画も展示されているので、あわせてチェックを。
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その他、海外で活躍したアフリカ出身の偉人にディオプ自身が扮したセルフポートレート作品《Diaspora》が、京都府庁旧本館の旧議場に展示されているので、こちらもお見逃しなく。
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■2.外山亮介/《導光》
「都をどり」で知られる祇園の歌舞練場を過ぎたところにある「建仁寺内の両足院」では、東京手描友禅染の家に生まれたアーティストである外山亮介の作品《導光》を観ることができます。


2008年、28歳の時に日本各地の工芸に携わる同世代の職人たちを探して回り、20人の肖像を撮影。外山氏自身が、実家を継いでいないことへのコンプレックスからの行動だったといいます。先のすぼまっていく工芸の道を選んだ彼らの想いを、フィルムに焼き付けたかったんだとか。また、彼らの根底にある想いを表出させるため、10年後の自分自身に宛てて手紙を書いてもらったそう。
10年後にその職人たちと再会し、1851年に発明された写真黎明期の写真術「アンブロタイプ(ガラス湿板写真)」という手法を用いて撮影を試みた10年越しの作品群が禅寺に並んでいます。外山自作のカメラを使って、露光時間の1分半から3分間じっとしてもらって撮影。まるで魂が抜き取られるような感覚を味わったという。「気持ちはピタッと止まらないので、ブレも味わいに繋がっています。」と外山は述べています。
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■3.ウィン・シャ/《一光諸影》
江戸期から続く帯匠である「誉田屋源兵衛の竹院の間」には、映画監督ウォン・カーウァイの元専属フォトグラファー兼グラフィックデザイナーとして名を馳せる香港のアーティスト ウィン・シャの作品《一光諸影》が並んでいます。
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映画『花様年華』のスチール作品やファッション写真、ビデオ作品など、未発表を含む初期作から最新作まで、彼の20年のキャリアを垣間見られる45点の作品が展示されています。
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展示をプロデュースした遠藤克彦建築研究所は、町家特有の奥行のある建築様式を活かした、「帯」からインスピレーションを得た空間を創出。作品はまるで一枚のロールのように見え、展示台のサイドを鏡張りにすることによって、作品が浮いているかのような目の錯覚を演出しています。
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■4.片山真理/《home again》
元々、生糸商と酒問屋として使われていた歴史を持つ町家を改装した「嶋臺(しまだい)ギャラリー」では、本年度、第45回木村伊兵衛写真賞を受賞した片山真理の《home again》が開催されています。キュレーションを担当したのは、ヨーロッパ写真美術館の館長を務めるサイモン・ベーカー。
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本展は、先天性四肢疾患によって9歳のときに両足を切断した片山が、これまでの10年以上に及ぶ活動の中で生み出してきた作品群を集めた展示。活動当初から、オブジェ、裁縫、パフォーマンス、写真などを組み合わせた作品を制作してきました。本展で注目したいのが、新作である《in the water》シリーズ。
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このシリーズは、片山が継続して取り組み続けている、身体を通じて自らを表象する試みと、自らを自然と重ね合わせる試みとを融合させたもの。2017年7月に娘が生まれたことで、時間軸が延び、自分の身体に意識が向くようになったといいます。本展は、日本での3年ぶりの発表となり、改めて自分はインスタレーション作家だと思い出したそう。
■5.ピエール=エリィ・ド・ピブラック/《In Situ》
1904年に竣工され、国の重要文化財にも指定されている「京都府庁旧本館 正庁」で開催されているのが、シャネル・ネクサス・ホール プレゼンツのパリを拠点に活動する写真家 ピエール=エリィ・ド・ピブラックによる《In Situ》。
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本展は、2013-2014年の2シーズンにかけて、パリ・オペラ座のバレエダンサーたちに密着し、ステージとバックステージでの生活を共有しながら制作されたもの。


「In Situ」は「Confidences」「Analogia」「Catharsis」の3部作で構成されており、「Confidences」シリーズは、バックステージやリハーサル中に撮影した写真。「Analogia」と「Catharsis」の2シリーズは、ともにカラー作品となっています。壮観なガルニエ宮にダンサーたちが配置された「Analogia」は、まるで壮大な絵画のようです。

薄暗い照明の中で撮影された「Catharsis」は、ダンサーたちが放つエネルギッシュな動きが、抽象的かつ絵画的に表現されています。
本シリーズは、ピブラックの被写体に対する洞察と親密性を示すものであり、神話的華麗さに彩られたパリ・オペラ座バレエ団をとりまく環境を総合的に探ろうとする、彼の独創性の証でもあります。
■6.福島あつし/《弁当 is Ready》
すでに取り壊すことが決定している5軒の長屋が連なる町家「伊藤佑 町家」では、福島あつしの《弁当 is Ready》が開催されています。
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福島は昨年、KYOTOGRAPHIEのサテライトイベント「KG+」でグランプリを受賞し、本年度メイン作品として展示。足掛け10年で神奈川県川崎市の独居老人への弁当配達の仕事に携わりながら、出会った人々にレンズを向けた作品を発表しています。
安心、安全、安定が何よりも求められるこの仕事に、福島はカメラを持ち込みました。これは、写真家でもある福島に、「お客さんの写真を撮ってみたら?」と店長が勧めてくれたことがきっかけだとか。安否確認も含まれているこの仕事を始めた当初、その生活状況にすっかり面食らっていた福島は、レンズを向けるのは失礼に値するのではないかと、かなり尻込みしていたといいます。結局、半年間一枚も撮れずに、日々が過ぎていったそう。年月を経ることで、ようやく撮影ができるようになり、当初抱いていたネガティブなイメージから、人間の本能の強さに気付いたとのこと。そんな10年間の時間軸を追体験できる、臨場感のある作品群です。
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■7.マリー・リエス/《二つの世界を繋ぐ橋の物語》
大徳寺総門から通りを隔ててすぐの場所にある「アトリエみつしま Sawa-Tadori」では、フランスの写真家 マリー・リエスの《二つの世界を繋ぐ橋の物語》を鑑賞することができます。
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リエスは、10年の歳月をかけて「フランス国立盲青年協会(パリ盲学校)」の子供たちの写真を撮り続けました。発端は1枚の全盲の少年の写真。それはリエスの夫アルノ―・デュ・ラ・ブィヤリーが子供時代に出会ったジャン・ランという少年のポートレートでした。二人は子供時代を共に過ごし、ブィヤリーはランから計り知れないほどのインスピレーションを受けたといいます。リエスは早逝したランの軌跡をたどるべく、盲学校の生徒たちのポートレートを撮り続け、本展では目で見る世界と目では見えない世界、その二つの世界を繋ぐことに挑戦。
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会場に入る際、全盲の方の追体験ができるように6mのトンネルをくぐっていきます。狭いところや暗闇が苦手な方、もしくはコロナの影響が心配な方は、別の入り口から入場可能です。また、フランスから極度の近視である版画家フロランス・ベルナールの協力を得てエンボス写真を、また日本ではアトリエみつしま Sawa-Tadorのオーナーであり全盲の美術家である光島貴之らから助言を受け制作した、UV印刷技術による「触る」写真も体感できます。
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■KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2020
会期:2020年9月19日(土)〜10月18日(日)
会場:京都市内各所
開館時間:会場によって異なる ※一部会場は事前予約が可能
パスポート料金:一般 4000円/ 大学・高校・専門学校生 3000円
※会期中有効
※全メインプログラム会場に各1回のみ入場可能
※中学生以下は無料
※障害者手帳をご提示のご本人様とご同伴者1名様は無料
※パスポートは未使用であっても払い戻し、再発券は不可
URL: https://www.kyotographie.jp/