瀬戸内海の島々を舞台に、瀬戸内ならではの美しい風景と現代アートを楽しめる「瀬戸内国際芸術祭」。
「ふれあう春(会期:2019年4月26日(金)~5月26日(日)」)」を経て、いよいよ「あつまる夏(会期:2019年7月19日(金)~8月25日(日))」が始まります。
今回は夏の期間にお目見えする新作を中心に、「瀬戸内国際芸術祭2019」の魅力をお伝えします。
■大島
穏やかな海に囲まれた大島。船から降り立つと、美しく広がる白い砂浜、緑濃く木陰が心地よい松林が出迎えてくれます。
夏会期に向け、この島で新たに制作された新作は、田島征三さんの《「Nさんの人生・大島七十年」-木製便器の部屋-》と「やさしい美術プロジェクト」の《稀有の触手(けうのしょくしゅ)》、山川冬樹さんの《海峡の歌/Strait Songs》、そして鴻池朋子さんの《物語るテーブルランナー in 大島青松園》です。
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大島には、ハンセン病の国立療養所「大島青松園」があります。日本では約90年にわたって患者の隔離政策が続けられ、多い時には700名をこえる入所者の方が暮らしていたといいます。
この島で制作された作品は、いずれも、島内で暮らすことを余儀なくされ、想像を絶する現実にさらされながらも、日々の喜びに目を向けて懸命に生きようとする入所者の人生に触発されています。
作品は、大島の「過去」をつきつけるだけではなく、「現在」も入所者の皆さんの日常は続いていること、共に紡ぐ新しい「未来」について観る人の心に呼びかけてきます。島の佇まいを体感し、作品の声に静かに耳を傾けてください。
■男木島(おぎじま)
ぐるぐると迷路のような坂道が印象的な男木島。平地の少ない土地柄から、山の斜面に家が重なりあうように連なる独特の景観で知られています。
こちらの島の新作はグレゴール・シュナイダーさんの《未知の作品2019》と遠藤利克
さんの《Trieb-家》。
《未知の作品2019》では空き家とその周辺の庭を墨で真っ黒に塗りつぶし、地面まで黒いチップで覆い尽くしています。日常の風景に、突如現れる異空間。
家屋の中に入ることは出来ず、周辺から隔絶された空間と思いがけず対峙することになります。住む人がおらず、次第に朽ちていく家は「失われていく」家ともいえます。作品を撮影した写真をみると、色だけでなく時間すら失ったかのような印象が更に強まりました。
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《Trieb-家》も同じく朽ちた空き家を題材としています。潔いくらい、かつての住人の痕跡を感じさせない家屋の中で、作家は水を用いて、かつて誰かが暮らしていた頃の面影、気配に働きかけます。
毎分約5トン(!)の水が循環しながら天井から勢いよく流れ続けるこの作品。太古の昔から人類と共にあり、生きるのに不可欠な水が血液のように家屋に巡る中、どんな気配が立ち上ってくるのでしょうか。
いずれも島の廃屋から成る作品ですが、全く異なるアプローチに是非ご注目を。
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■高松港周辺(北浜エリア/高松市内)
・北浜エリア
高松港に程近い北浜エリアでは「北浜の小さな香川ギャラリー」として、全く異なるタイプの作品が展開されています。
北浜エリアの「北浜の小さな香川ギャラリー」では、香川の伝統や技術、特産品等、香川ゆかりの事物とアートのコラボレーションを楽しむことが出来ます。
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・高松市内
高松市美術館では今回女木島(めぎじま)にも出展している宮永愛子さんの展覧会「漕法」が開催中です(2019年9月1日(日)まで)。
四国初の大規模個展となる同展では、これまでの活動を代表するシリーズである《手紙》や《life》に加え、讃岐を名称の由来とする石、サヌカイトを13トンも用いた大規模な新作インスタレーション《漕法 Ⅱ》が展示されます。
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「漕法」とは舟を漕ぐ方法。絶えず変化しながら存在し続ける世界と対峙する私達を舟になぞらえ、人生をどう漕いでいくのか問いかけます。
また高松市内の繁華街には、渋谷から世界へ、ボーダーレスにライブストリーミング配信を行う「DOMMUNE(ドミューン)」のサテライトスタジオ「DOMMUNE SETOUCHI」が登場。
2010年3月1日に渋谷で開局した「DOMMUNE」は、震災を挟んで日本の文化状況を切り取る貴重なアーカイブであり、運営・主催の宇川直宏さん自身のライフログともいえる存在です。
スタジオで行われる撮影、配信、記録(そしてスタジオの建物自体も)すべてが作品である「DOMMUNE SETOUCHI」はスタジオでの観覧も可能。夏会期中の水曜日から日曜日、作品が生まれる瞬間に立ち会ってみませんか。
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■小豆島(沖ノ島/醤の郷(ひしおのさと)/草壁港
・沖ノ島
淡路島に次いで瀬戸内海で二番目に大きな島となる小豆島。こちらでは、小豆島本島に加え、島から170m離れた対岸にある沖ノ島にも作品が制作されています。
沖ノ島にあるのはクー・ジュンガさんの《OKINOSANG/元気・覇気・卦気》。島の各所、計7箇所に設置された6,000個以上のクリスタルダイヤモンド(模造ダイヤ)が、太陽光や月光の中、みる角度によって色を変えながらキラキラと輝きます。
一見この光こそ作品と捉えてしまいそうですが、作家が伝えたいものは島を巡る内にみえてくる島の環境や歴史。
クリスタルダイヤモンドの輝きを探しながら、是非体感してください。
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・醤の郷(ひしおのさと)
風光明媚な小豆島はオリーブやゴマ油、素麺等の日本有数の生産地。そんな特産品の一つである醤油の元組合事務所が作品の会場となっています。作品があるのは、醤油蔵や佃煮工場が軒を連ねる「醤の郷」。
ハンス・オプ・デ・ビークさんが手がける《静寂の部屋》は、建物の歴史を反映したインスタレーション作品です。屋内に入って真っ黒な前室を通り抜けると、目の前に広がるのは…
灰が降り積もったかのようなグレーの空間。醤油組合事務所の後に図書館として利用されていたこともあり、壁の半分以上を本棚が締めています。時が止まったようなインスタレーションの中で、柔らかなピンクに色づく花が目を引きます。この花は新たな生命の芽吹きを表しているのだとか。
樽を模したオブジェには座り、作品名そのままの「静寂さ」の中でしばし日常を忘れてみませんか。
・草壁港
小豆島の主要港湾の一つである草壁港にはシャン・ヤンさんの「辿り着く向こう岸ーシャン・ヤンの航海企画展」が。夏会期からは、27mもの長さに及ぶ船が新たに設置されています。
シャン・ヤンさんと船との思い出は2歳の頃にさかのぼります。かつて、政情から行方不明となった父を探すために母と共に小さな漁船で故郷を旅立った経験から、彼にとって船は、平和で心安らげる場所へ導いてくれる旅の象徴なのだそうです。
■犬島
香川県を離れ、岡山県の犬島へ。この島では島内にギャラリーが点在する「家プロジェクト」が有名です。アーティスティック・ディレクターを務めるのは長谷川祐子さん、建築を担当するのは妹島和世さんです。
夏期に向けて新作が公開されるのは、倒壊寸前の廃屋を可能な限り古材を用いて改修した「C邸」。家屋を取り囲む雨戸が取り外し可能なため、半外の状態で作品が展示されています。
ギャラリーいっぱいに設置されているのは半田真規さんの《無題(C邸の花)》。巨大な切り花のオブジェです。
楠から彫り出されているため、作品からは楠の芳香が漂います。躍動感のある木肌を染める鮮やかな水干絵具(すいひえのぐ ※天然の土等を水で精製、干すことで出来る泥絵具)の色彩をみていると、彫刻でありながら、ドローイングのようにもみえてきます。
切り花は祝福や追悼、様々な思いを込めて捧げられます。
「C邸」に置かれたこの花に、あなたはどのような思いを映して眺めますか。
■宇野港
本州から瀬戸内海に浮かぶ島々への玄関口となる宇野港。宇野港フェリー乗り場から徒歩で少しいくと、原口典之さんの作品《斜めの構成 1/斜めの構成 2/水平の構成 3》が目の前に広がります。
《斜めの構成1/斜めの構成2》は巨大な建築資材の2本のH鋼が斜めに屹立(きつりつ)している作品です。重厚な素材がワイヤーで引っ張られているかのように絶妙なバランスで立つ様は、日常の空間を一変させます。
《斜めの構成1/斜めの構成2》の間に《水平の構成 3》が加わることで、より空間は緊張感を帯び、作品の放つ力強さも増しています。
最後に
いよいよ夏本番。海に囲まれた島の風景もより一層鮮やかに魅力を増す時期です。とはいえ、暑さも本番。日焼け対策や熱中症対策、虫よけ対策はマストです。
スムーズに芸術祭を楽しむために、事前にどのコースで作品や島々を巡るのかを(どこで食事をとるのかも)決め、場所や移動ルートを確認しておくのがおススメです。強い日差しの中、ガイドブックを長時間のぞき込んでいると、視線を移した時に、くらっとしてしまうかも。また、長く外で迷うのはバテる原因にもなります。
経路検索等の機能の他最新情報のPUSH通知を備えた公式アプリ(https://app.setouchi-artfest.jp/)もあるので、是非チェックを。
それでは、日常と非日常がゆるやかに交錯する島の時間の中で、瀬戸内の風土とアート作品をご堪能ください!
開催概要
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会 期:2019年4月26日(金)~11月4日(月・振休)
春(ふれあう春):2019年4月26日(金)~5月26日(日)
夏(あつまる夏):2019年7月19日(金)~8月25日(日)
秋(ひろがる秋):2019年9月28日(土)~11月4日 (月・振休)
総計 107 日間
会 場:直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島、沙弥島(春、終了)、本島(秋)、高見島(秋)、粟島(秋)、 伊吹島(秋)、高松港周辺、宇野港周辺
料金や出品アーティスト等詳細はこちらからご確認ください。