現代アートの分野で活躍する新進気鋭のアーティストをサポートすると共に、より良い LIFE スタイル「アートのある暮らし」を提案する作品展示プランのコンペティション「sanwacompany Art Award / Art in The House 2019」。
レベルの高い作品展示プランに審査が難航する中、94組もの応募の中から、グランプリ、「サンワカンパニー社長特別賞」、ファイナリストに5組のアーティストが選出されました。彼らの応募プランのコンセプトやこれまでの活動、そしてこれからについてお話を伺います。
第五回目は、ファイナリストの田中哲也さんです。
〈バックナンバー〉
第一回 デジタル時代だからこそ、身体性を伴うアナログなデジタル写真を撮るアーティスト・顧 剣亨(コケンリョウ):「sanwacompany Art Award / Art in The House 2019」グランプリ受賞
第二回 絵の具は描くもの?絵画の決まりごとを飛び越え新たな「絵画」で表現するアーティスト・多田圭佑(タダケイスケ):「sanwacompany Art Award / Art in The House 2019」「サンワカンパニー社長特別賞」受賞
◯バブルの煽りで創作の道へ。自分にしか出来ない作品でスロースタートを取り戻す
芝田:お名前とこれまでの経歴をお聞かせください。
田中:田中哲也と申します。1993年に近畿大学経営学科を卒業して、出版社でサラリーマンをしていたのですが、バブルの煽りにより入社1年半で会社が倒産してしまいました。そこで思ったのが、どうせ一度の人生なので、好きな事をやっていこうということでした。もともと絵を描いたり物をつくったりすることが好きだったので、本格的に大学で油絵を学ぼうと武蔵野美術大学の通信制短大に入学しました。しかし絵は二次元の造形で当たり前ですが実際にものを触ってつくることは出来ません。また絵では生活して行くのが難しいと思い、次に京都造形芸術大学の通信制大学で陶芸を学びました。京都造形大を卒業したのが、31歳の時で、同世代の陶芸家に比べると大体10年遅れのスタートとなりました。この10年の遅れを取り返すためにと思い考えたのが、自分だけにしか出来ない作品をつくっていこうというものでした。
作品のスタイルとしては、最初は、陶をボルト、ナットで連結させた作品QOOシリーズを制作していました。この技法にたどり着いたのは、今までにないことを陶でやりたいと思ったことと、もう一つは、大きな作品をつくりたいと思ったことにあります。陶芸作品の大きさは、窯の大きさに制約されます。しかしこの技法でならば、つなげていくことで、どこまでも大きな作品がつくれます。実際にこの技法で3mぐらいの作品を何点かつくりました。QOOシリーズをレリーフ作品にしたヘキメンノシコウシリーズやそれらのイメージをファンクショナルアート*に活かしたARKシリーズ等も制作しました。2010年には、音を盛る器と言うコンセプトで響器HIBIKIを制作し、2012年からは光を盛る器と言うコンセプトで輝器KAGAYAKIシリーズを制作しています。
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作家活動としては、最初は、画廊を借りて個展やグループ展をしていました。公募展にも応募していました。そのうち国際コンペに通るようになり、越後妻有アートトリエンナーレ、神戸ビエンナーレ等でプロポーサルが採用されるようになりました。画廊や百貨店も貸しではなく企画展として個展を出来るようになりました。またこの10年ほど、レジデンスやワークショップ、展覧会等で台湾、ロシア、インド、アメリカ、韓国、中国、オランダ等の海外に行く機会が増えています。これらをきっかけにコネクションを作り、現地のギャラリーで個展をしたり、現地のギャラリーからアートフェアに出品したりしています。
*家具や器等、日常使用するものに意匠を施し、美的、芸術的に制作した作品。
◯美術史の中での自分の座標を把握したい
陶芸家?現代美術家?どちらでもあり、どちらでもない、新しい領域
芝田:制作活動の中で大事にされていることは何でしょうか。応募書類の中でご自身の作品がコンテンポラリーアートかつクラフトであり、その臨界点の提示に取り組まれていること、陶芸家にしか出来ない現代美術とは何かと考えながら制作していると書いていらっしゃったのが印象的でした。そのあたりも含めてお話しいただけますか。
田中:私の作品は、工芸であり、現代美術でもあります。日々、その交差点あるいは臨界点を提示できないだろうかと考えています。そして新しい領域あるいは様式を展開できないだろうかと考えています。海外に出ると日本の工芸とクラフトCraftは、同意義でないことを良く感じます。大概の国でクラフトとアートは分かれており、陶芸では、器をつくる作家は器だけ、アートピースを作る作家は、アートピースだけですが、日本の陶芸家は、どちらも作れ、作品として発表している作家が多いです。歴史的な背景、大学の陶芸教育、日本経済等が起因しており、クラフトとアートの境が曖昧と言えます。
このようななか最近、自分が何処にいて何をしたいかを明白にする事が大事だと考えます。世界の中で何を背景に何をしたいかという横軸的な値と、工芸史、現代美術史の文脈のなかで何を継承しどの様に展開してゆくかの縦軸的な値において。工芸史、陶芸史での立ち位置は分かりますが、現代美術史、美術史での位置はそれらが大きすぎて把握が難しいです。陶芸家、現代美術家、どちらでもある、どちらでもない、或いは新しい領域、いずれにせよ現代美術に一歩踏み入れた以上、美術史の中での座標を把握することが必須だと思っています。
◯今回の作品プランのコンセプトについて
芝田:今回の作品プランのコンセプトについてお話しください。
田中:近年、陶芸家にしか出来ない現代美術とは何かと考え制作しています。我々陶芸家は器をつくりますが、見えないものや、形のないものを盛る器をつくることにより新しい表現が可能だと考え、2012年から、光を盛るための器というコンセプトで輝器-KAGAYAKIを制作しています。輝器本体には、2009年に信楽窯業試験場で開発された焼成すると半透明になる土、信楽透土を使用しています。作品に蛍光顔料、蓄光顔料を焼付けて、ブラックライトで照らすことにより発光させている作品と作品内から青色LEDライトで照らしている作品があります。
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コンペティションのタイトルに「Art in The House」が入り、テーマも 「アートのある暮らし」でしたので、輝器の壁面作品、立体作品で空間構成し、その中に茶碗、棗(なつめ)、建水等の光る茶道具をサンワカンパニー様の家具を使用し配置しました。アートピースとファンクショナルアートを同じ空間に展示し、視覚的なアートと工芸の融合を目指しました。
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◯作品の発表を通して日本特有の美の尺度を語っていきたい
芝田:今後の活動についてお聞かせください。
田中:先週(2019年3月20日時点)に台湾での個展が終了しましたが、今後も台湾での発表を継続して行きたいと思います。今後の予定としては、6月5日~11日まで、京都高島屋美術工芸サロンで個展をします。京都での始めての個展になります。また器中心の個展でこれも初めてです。夏には、韓国のCLAYARCH GIMHAE MUSEUMに招かれSummer International Ceramic Workshopに参加します。9月には、Webのみの展示になりますが、Korean International Ceramic Biennaleに出展します。これを機会に韓国でも個展が出来ればと思います。
近年は、シンポジウム、レジデンス等で、講演することが多くなってきています。今までは、自分の作品のみを語っていましたが、昨年のIAC(International Academy of Ceramics 国際陶磁アカデミー)の国際会議では、「Ceramic as Contemporary Art」と題して自分の作品を基に日本の現代陶芸事情を発表しました*。日本の工芸KOGEIとクラフトCraftの違いや、日本の陶を用いたポストモダンアート、コンテンポラリーアートが伝統的な工芸の技術により発展してきたことなどを述べました。20世紀美術は、アメリカ、ヨーロッパのスケールで語られました。しかし日本にも独特の尺度があります。それが世界基準とまでもいかなくても、紹介し理解してもらえることは可能です。今後作品を発表していくと共に日本特有の美の尺度を語っていければと思います。
芝田:最後に推薦人の川尻潤さんに一言メッセージをお願いします。
田中:ご推薦頂きありがとうございました。川尻さんとは、ロシアのシンポジウム、中国でのレジデンスで御一緒頂いたのですが、また世界のどこかでオッサン同士の珍道中出来ればと思います。
芝田:ありがとうございます。
(了)
*IAC国際陶磁アカデミー国際会議講演の内容は以下からご確認いただけます。
https://www.aic-iac.org/wp-content/uploads/Ceramic-as-Contemporary-Art.pdf
■「sanwacompany Art Award / Art in The House 2019」展示プランについて
作品タイトル:輝器 KAGAYAKI
推薦人:川尻 潤(美術家・陶芸家)
■作品コンセプト
私の作品は、コンテンポラリーアートであり、クラフトでもあります。日々、その臨界点を提示できないだろうかと思っています。陶芸家という立場ですが、発表の場も最近では、大地の芸術祭、神戸ビエンナーレなどのコンテンポラリーアートのイベントに出展することが増えています。
近年、陶芸家にしか出来ない現代美術とは何かと考え制作しています。我々陶芸家は器をつくりますが、見えないものや、形のないものを盛る器をつくることにより新しい表現が可能だと考え、2010 年のBIWAKO ビエンナーレでは、音を盛る器として響器-HIBIKI を制作しました。2012 年からは、光を盛るための器というコンセプトで輝器-KAGAYAKI を制作しています。輝器本体には、2009 年に信楽窯業試験場で開発された焼成すると半透明になる土、信楽透土を使用しています。作品に蛍光顔料、蓄光顔料を焼付けて、ブラックライトで照らすことにより発光させている作品と作品内から青色LEDライトで照らしている作品があります。
暗い場所で見ていただくことがメインになりますが、明るい所昼間でも作品として鑑賞できるように、作品表面に青磁釉を施し、陶彫刻としても成立しています。
■推薦人
田中哲也氏は陶芸という伝統的な技術を駆使し、現代美術作品を展開する作家である。2007 年から陶のピースをボルトで組み合わせる作品を制作している。まず驚くのがそのサイズで、陶芸作品でありながら3m を超える大きさである。また一見すると全てが金属に見えるが、連結のボルト以外は陶であることに驚く。2012 年からは、透ける陶の内部に光源を入れ、光のオブジェを制作している。この作品については、誰もそれが陶であることを見抜けない、またそのスケールと暗闇で美しくブルーに光る存在感に誰もが目を奪われる。近年では世界中で展覧会に出展し、アーティスト・イン・レジデンス、ワークショップ等を行っている。また陶芸分野に限らず、越後・妻有アートトリエンナーレ、神戸ビエンナーレ、BIWAKO ビエンナーレ等、現代美術のフィールドでも活躍している。彼は日頃、工芸と現代美術の融合を目指しているが、それが可能となり、新しい領域あるいは様式を展開する作家となるであろう。
以上の理由により田中哲也氏を推薦します。
田中哲也 Tetsuya TANAKA
IAC国際陶磁アカデミー会員
名古屋芸術大学,京都造形芸術大学講師
<主な展覧会>
2019年 田中哲也展 企画 綻堂蒔光 台北・台湾
2007~18年BIWAKOビエンナーレ
2013年 神戸ビエンナーレ
2012年 越後妻有アートトリエンナーレ
2009年 田中哲也‐ノスタルジックな近未来の情景 企画 滋賀県立陶芸の森
<主な受賞>
2017年 秀明文化基金賞
2016年 台湾国際陶磁ビエンナーレ優選
2015年 京畿世界陶磁ビエンナーレ(韓国)佳作
<主なA.I.R.全て招聘>
2018年 富平陶芸村(中国)、EKWC(オランダ)、滋賀県立陶芸の森
2017年 新北市立鶯歌陶磁博物館(台湾)
2015年 Clay Studio(米国)
他、コレクション国内外に多数