エルメス財団では、パリを拠点に制作するアーティスト、湊 茉莉の日本における初の個展を開催いたします。鮮やかな色彩を用いた抽象的なモチーフを建築物に直接描くスタイルの作品を手がけてきた湊は、2006 年の渡仏以降、主にフランスを中心に個展やグループ展にて作品を発表してきました。また近年は、ネッケル小児病院(2014 年、パリ)やパリ国際大学都市のカフェテリア(2018 年)などに常設の壁画も手がけています。
展覧会「うつろひ、たゆたひといとなみ」は、「うつろいゆく世界と人々の営み」を意味するタイトルで、通常のギャラリー展示に加え、メゾンエルメスのガラスブロックのファサードにも絵画を描き、建物の内外で変化する時間や光の流れを描き出す初めての試みとなります。
湊は、さまざまな文明の起源に遡りながら、歴史の中で人々によって共有された、あるいは忘れ去られてしまった事柄に興味を寄せ、それらの痕跡や歪みを再び浮かび上がらせてゆきます。大胆で即興的な身振りを思わせるペインティングでありながら、実際は制作する地で目にした風物を書きとめたスケッチをもとに、綿密なリサーチを伴った観察から出発します。
メゾンエルメス フォーラムでの展覧会に先行し、ファサードに描かれる「Utsuwa(器)」は、人類の文明に深く関わる「器」の普遍的な存在と、時間や光の変化と共存しながら周囲の環境を受け入れてゆくガラスの建物のイメージから発想されました。
ギャラリーでは、黄河文明から、メソポタミア、エジプト、イスラムといった異なる文明や文化の中で重要な役割を担っていた、いくつかのモチーフに焦点を当てた作品が展示されます。石やテラコッタ、骨、鉄、陶などでできた彫像やお守りなど宗教に関わるものや、器や道具といった日常生活品などのリサーチから見いだされる相互の文化の混合や交流を、人類学的な視点から重なり合う襞のような構造で表します。
人々が住まいを作り、建物や自然を標としながら移動し、束の間の定住を繰り返してきた古代の時間へゆっくりと想いを馳せた瞑想的な作品は、歴史のどんな事柄を映し出し、私たちにどんな痕跡を残してゆくのでしょうか。
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