アートを通して世界のダイバーシティを伝えるべく活動する「Resala」は、今年6月、イラク出身の若きフォトグラファー、シェブ・モハ(Cheb Moha)を東京に招き、アーバンな中東を写す写真展「衣食住」を開催します。
本展では、誰にとっても身近な「衣食住」をテーマに、中東湾岸諸国での人々の暮らしをドキュメントしています。開催に先駆け、アーティストについて、そして湾岸諸国の「衣」、「食」、「住」について4回の連載でお伝えしたいと思います。
第2回目は、フォトグラファー、 シェブ・モハの作品から見えてくる湾岸諸国の「衣」をご紹介します。
→連載第1回目「【Vol.1】日本初公開!イラク出身フォトグラファー写真展「衣食住」開催記念連載企画 : Art x Diversity – 中東アーティストが切り取るリアリティ」はこちら
→連載第3回目「【Vol.3】日本初公開!イラク出身フォトグラファー写真展「衣食住」開催記念連載企画 : Art x Diversity – –食で旅するアラブ」はこちら
ファッションとしての伝統
中東地域のファッションといえば、まず最初に思い浮かぶのが、イスラム教ゆえに特殊に見える女性のファッションではないでしょうか?中東地域のファッション、特に女性のファッションはイスラム教のフィルターを通して見られがちで、女性に対しての「抑圧」の象徴とされてきました。
政府によってスカーフの着用が義務付けられているイランでは、これを抑圧的だと感じ抗議をする女性たちの運動が昨年末から盛んになっています。
テヘランのメインストリートであるエンゲラブ通りでスカーフを外した女性たちの写真がSNSで拡散しています。「エンゲラブ通りの女性たち」の社会ムーブメントは、多数の逮捕者が出ているにも関わらず、収まる様子はありません。この小さくても勇気ある彼女たちの運動はやがてどこへたどり着くのでしょうか。
オランダに活動拠点をおく写真家マリンカ・マスース(Marinka Masséus)は、シリーズ作品「My Stealthy Freedom(私の密かな自由)」を通して、スカーフの着用が強制されているイラン社会で女性たちが掴み取る束の間の自由を表しています。
一方で、本当に彼女たちにとってイスラムのファッションは抑圧的なのでしょうか?長年ヒジャブをテーマに作品を制作しているイエメン出身のアーティスト、ブーシュラ・アルムタワケル(Boushra Almutawakel)は、ヒジャブについてこう発言しています。「ヒジャブはメイクと同じ。外出する時に多くの女性がメイクをして外向きの自分を装う様に、私たちはヒジャブをまといます」
このようにヒジャブや伝統的な服をファッションとしておしゃれに取り入れている人もいるのです。
ニューヨークとジッダ(サウジアラビア)を拠点にしているファッションブランド「EVERYDAY SILVER」は、カフタンスタイルや北アフリカのテキスタイルを取り入れたコレクションを発表することで、伝統の新しいファッションとしての再発見を試みています。
また、アラビア語でリボンを意味するファッションブランド「Fyunka」のデザイナーでニューヨークを拠点に活躍するアラー・バルヒー(Alaa Balkhy)は、湾岸エリアの多様な文化やファッションをデザインに取り入れています。
このように中東地域のファッションと一言でいっても、私たちが想像する以上の多様性があり、世界におけるプレゼンスも日々変化していっています。
中東地域の女性ファッションとこれにまつわる現代アートについて詳しく知りたい方は、コラム「アートで見る中東の今 —現代アートが映し出す“イスラム・ファッション”—」をご覧ください。
シェブ・モハと「衣」
中東地域の日常を切り取る写真家シェブ・モハが見てきた、日常に潜むファッション文化とは?
2017年にアラビア版「VOGUE」がローンチするなど、ラグジュアリーブランドの中東地域への注目がより一層高まっています。シェブ・モハも写真家として、ラグジュアリーブランドとコラボレーションをしています。
オマーン最大の港湾都市マスカットで撮影されたシェブ・モハによるルイ・ヴィトン
アラビア版「VOGUE」やサウジアラビアで発行されているファッション雑誌「Hia」などとコラボレーションをする一方で、モハは、ラグジュアリーな流行の影で置き去りにされつつある伝統にも目を向けます。
オマーンの伝統的な帽子「Kumma」を被る兄弟。
オマーンの女性たちによりハンドメイドで作られ、細かい刺繍が施されています。中東地域でもオマーン特有の「Kumma」は、オマーンの誇りとして若い人たちからも親しまれています。
「Kumma」をかぶったギターリスト
これらのノスタルジックな写真からはラグジュアリーブランドの写真を手がける一方で、人々の日々の生活を写し続けるシェブ・モハの伝統に対する敬意、そして「それらがいつか忘れ去られ消えてしまうのではないか?」という彼の悲しみと焦りが伺えます。
使い古された言葉ではあるけど、西洋に塗りつぶされ世界が一色になってしまう前に、伝統を新しい形で継承する必要性のあることが彼の活動から伝わってきます。
デザイナーとしてのシェブ・モハ
中東地域を旅しながら日常生活を切り取り、さらに最近では有名ブランドの写真を撮るなかで、シェブ・モハは、この地域ではあまり主流ではなかったストリートファッションのデザインを手がけるようになりました。
英語で「Youth of the future」という意味のブランド「Shabab al mustaqbal(شباب المستقبل)」を2013年立ち上げたモハ。そのブランド名からも、急激な変化を遂げる過程にある特殊な環境で未来を築くアラブの若者への彼の希望が込められています。
男性が着る伝統的な白い服「カンドゥーラ」とトートバック
「Shabab al mustaqbal(شباب المستقبل)」と書かれたシャツを着た女性。
ドバイで撮られたこの写真から人口の80%以上が移住者であるUAEのミックスカルチャーがうかがえます。
彼は、ブランドのコンセプトそして今後の展望をこう語ります。
「中東発のスポーティーウェアを目指しています。今後、様々なブランドとのコラボレーションで生まれる新しい可能性が楽しみです」
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2018年度、「Resala」はアーツカウンシル東京に助成を頂き、若きアーティスト、シェブ・モハの写真展を開催いたしま す。
写真展「衣食住」ではドバイで数々のラグジュアリーブランドともコラボレーションするイラク出身のアーティスト シェブ・モハの写真を、彼のファッションブランドとともに展示します。 衣食住という親しみやすいテーマでキュレーションされたこの展覧会は、きっと日本にとって遠い存在の中東地域をもっと 身近にし、そして多くのクリエイティブ・マインズに新しいインスピレーションを与えるに違いありません。
会場では、作家がこだわりを込めて現像した作品(作家のサイン付き)を販売します。 またレセプションパーティーを開催し、作家の来日が実現した際には作家によるトークを予定しています。
展覧会を企画するにあたり、単に作品を紹介するだけでなく、アーティスト自身を東京に招いてトーク・レセプションパーティーを行なったり、同時に彼の作品の写真集も作りたいと考えるようになりました。初めて取り組む大きなプロジェクトをなるべくたくさんの人に知って関わって頂きたいという思いから、これらの希望を実現し展覧会を更にアップグレードするための資金をクラウドファンディングを通して集めようとしています。
みなさん、リンクより気持ちだけでも支援して頂けたらとても嬉しいです。6月まで2ヶ月、張り切って準備しますので、よろしくお願いします!
ウェブサイト http://motion-gallery.net/projects/resalatokyo
ファンディング期間 2018年3月27日―5月31日
また、うちでチラシ置いていいよ!チラシ配るよ!というサポートも嬉しいです。
素敵な写真展開催に向けてご協力お願いいたします。