荒木経惟(1940-)は、1960 年代半ばの活動の初期から現在まで、都市、人、花、空、静物といった被写体を、どれも特別視することなく、等しく日常のこととして撮影し、それらのもつ「生」の生々しさ、また「生」と切り離すことのできない「死」を捉えてきました。生と死の比重がそれぞれの写真によって異なって感じられるさまは、人間の生死の揺らぎや荒木個人の人生の反映とも取れ、作品の魅力を増しています。
本展では、これまでに撮影された膨大な写真のなかから、腐食したフィルムをプリントする、写真に絵具を塗る、割れたレンズで撮影するなど、何らかの手が加わることによって生と死をより強く意識させたり、両者の境を撹乱させるような作品を中心に紹介します。こうした試みは、荒木の時々の感情から生まれる写真への率直な欲求であり、そのような作品は、従来の枠にとらわれることなく新しいことに挑み、写真にも自身にも真摯に向き合う荒木の姿を改めて伝えてくれることでしょう。さらに、現在の荒木の生を示すものとして、本展のために制作された丸亀市出身の花人、中川幸夫(1918-2012)へのオマージュを表した《花霊園》、友人の遺品であるカメラで撮影した《北乃空》などの新作も出品し、写真と一体となった荒木経惟を紹介します。
【見どころ】
1. 私、写真。
荒木の写真人生を総括するかのように「私、写真。」と銘打たれた本展は、父母の死を捉えた《父の死》(1967)、《母の死》(1974)から始まり、変わらず「生と死」を写してきた荒木のこれまでを紹介します。もちろん、荒木の写真への欲望が締めくくられるはずもなく新作も発表、次のステージへの序章でもあります。
2 . 丸亀との関連—中川幸夫へのオマージュ
荒木が長く撮り続け、重要なモチーフである「花」。本展では「花」の作品として、展覧会の開催地である香川県丸亀市出身のいけばな作家、中川幸夫(1918-2012)へのオマージュを込めた新作《花霊園》を発表します。中川と二人展を開いたこともある荒木が、中川を想いながら被写体となる花や人形の選択にもこだわって、二人に共通するテーマ「生と死」を捉えた作品です。また、本作は印画紙ではなく和紙にプリントしており、荒木の新しい境地を開いています。
3 . 新作4 シリーズ/日本初展示3 シリーズ
本展のための新作として、中川幸夫へのオマージュである《花霊園》の他、亡くなった知人の夫人から贈られたカメラで空を撮影した《北乃空》、荒木が敬愛する葛飾北斎の命日である4 月18 日と自身の誕生日の5 月25 日の日付で日常を撮り、北斎が称した「画狂老人」にちなんで「写狂老人」と称してきた荒木が、ついに北斎の生まれ変わりとなった《北斎乃命日》、女性を撮った写真にペイントした《恋人色淫》を出品します。《北乃空》は、1 枚の写真に2カットが収まっているため、二つの空の間には黒い帯が挿入されており、朝鮮半島の北緯38度線を意識した作品です。また、日本では初展示となる《青ノ時代》(2005 年)、《去年ノ夏》(2005 年)、《死空》(2010 年)を出品。貴重な機会となります。
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【関連プログラム】
■キュレーターズ・トーク
本展担当キュレーター(松村円、吉澤博之)が展覧会をご案内します。
日時:会期中の毎日曜日14:00−
(他の展覧会関連プログラム開催時は実施しない場合があります。)
参加料:無料。ただし展覧会チケットが必要です。
申込:不要。1 階受付前にお集りください。
■みんなで知ろう!アラーキー。
アラーキー(荒木さん)ってどんな人?どうやって撮ってるの?など、
作品を見ながら担当キュレーターがわかりやすくお話します。
日時:3 月10 日(土)、11 日(日)11:00-11:30
対象:中学生、高校生とその年齢にあたる方。
保護者の方も一緒にご参加いただけます。
参加料:無料。ただし保護者の方は展覧会チケットが必要です。
申込み:不要。1 階受付前にお集まりください。
*この他にも関連プログラムを予定しています。
決まり次第、当館ウェブサイト(http://mimoca.org.)にてお知らせします。
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