Hernan Bas - Unlike other members of his species, camouflage is not in his favour, 2017
Acrylic on linen 127 x 101.6 cm
ペロタン東京は、アメリカのアーティスト、ヘルナン·バスの個展『異郷の昆虫たち』を開催いたします。本展は、近年国際的に注目を集めるバスの作品を日本で紹介する最初の展覧会であり、ギャラリー·ペロタンでの展示は6回目となります。
ヘルナン·バスは、1978年にアメリカ南部のフロリダ州マイアミで生まれ、同地で絵画を描き始めました。現在はカナダにほど近いデトロイトとマイアミを拠点として活動しています。
19世紀のデカダン派の作家オスカー·ワイルドやジョリス=カルル·ユイスマンス、そしてフランスの画家グループのナビ派から影響を受けているバスは、象徴性や詩的比喩に満ちた作品を創り出します。バスの巧みなペインティングは、過去と現在そして風景画と抽象画の絵画的しきたりの間で揺れ動いています。古典的ロマンティシズムを湛える画風のなか、派手な色彩の対比と装飾的な主題により、歴史的で神話的な物語が編み出されるのです。また、 物憂げで儚ない佇まいの青年像達は、アーティストが「ファッグ·リンボー (Fag limbo)」と呼ぶ少年期から大人へと移行する間のどちら付かずの危うげな状態で時が止まったかのように現れています。
『異郷の昆虫たち』と題した本展では、アーティストが近年手にした1874年に出版された昆虫学の古書籍『海外の昆虫 - その構造、生態と変態の報告』から着想を得た新作ペインティングとドローイングを発表いたします。バスは、本が全般にわたり昆虫たちの様子を詩的に記述している点が、19 世紀後半のヨーロッパで軟弱な男性たちを描写する際に「ダンディー」と呼び表していた点に重なることに着目しました 。 バスによると、当時の風刺画は「ダンディー」達を世俗から逸脱した怪物のように扱い、まるで昆虫のように描写していたそうです。
日本では少し渋めの伊達男といった印象の「ダンディー」という言葉は、軟弱というより、むしろ勇ましい男性の姿を指してきました。 あえて現代的に比較するならば、ファッションや化粧などで着飾るヴィジュアル系のミュージシャン達が近いかもしれません が、19世紀ヨーロッパのダンディーと完全に一致するものは見当たりません。
今シリーズにおいてバスは、文化的にも歴史的にも「外来」といえる一群のキャラクターを描き、これら「化け物」にも味わいを見出すかもしれない日本の観客に届けたいと考えました。エキゾチシズム漂う植物や扇などのモチーフに囲まれて、蛹から羽を伸ばそうとする変態中の蝶や、捕食するため巣に身を潜める蜘蛛などとして描かれた若者の肖像画の、繊細な容姿と猜疑的な強い視線が見るものの心に残ります。その美しい生物の姿や眼差しに、好奇心と警戒心を行き来しながらも鑑賞者は捕らえられてしまうのかもしれません。
原田 真千子