平瀬ミキ《Translucent Objects(半透明な物体)》
ディスプレイには、重なり合った複数の積み木のような物体が映し出されています。
それは画面の中に時折現われる手によって映像に映されている空間を移動させられながら、配置を変えていきます。
その映像は半透明で、ふたつのよく似た映像が重ね合わされており、映像内の物体が重なった部分が不透明な状態になって、空間の中で実体化しているように見えます。
この作品、《Translucent Objects(半透明な物体)》は、対面する2台のカメラの間の空間で起こる出来事を同時に撮影し、その一対の映像素材をそれぞれ不透明度50パーセントにした状態で重ね合わせることで、ひとつの映像を作り出しています。
それは、被写体の正面と背面をそれぞれとらえたカメラによって、その両方を同時にひとつのフレームの中に収めたものになります。
また、両面の映像が重なることによって、半透明などこか朦朧とした映像空間の中に、不透明度100パーセントになった、この撮影システムによるメディア空間の中だけに存在する虚像が現われます。
作家はこの作品を「映像表現による彫刻作品」と呼んでいます。
それは、虚像としての映像を可塑性のある素材として扱い、シンプルな手法でありながら、観客に複雑な視覚体験をもたらし、メディアを通して対象をとらえることの意味を問いかけています。