町工場を音楽レーベル化するプロジェクトINDUSTRIALJP。日本のテクノロジーを下支えする町工場の中でメカニカルに動き続ける工作機械が響かせる音と映像を、気鋭のトラックメーカーがテクノミュージックへと一変させるプロジェクトです。YouTubeのビデオシリーズを視聴すると、日頃のストレスを忘れさせてくれる「インスタント無我」な境地が体験できますよ。
日本の町工場と音楽産業をサポート
INDUSTRIALJP は、日本の町工場の技術力を新しいやり方でアピールしようと、電通グループのクリエイティブスタッフが中心となって2016年に起ち上げたプロジェクト。高い技術力がありながらも、3Kな職場として若者に敬遠されがちな町工場と、徐々に力を失っている国内音楽産業を活性化させる目的がありました。
INDUSTRIALJP の発想のきっかけは、製造業の商談フェアのブースで流されていた、小松ばね工業の従業員が撮影した一本の映像。無駄な演出のない、ばねを作る工程をストレートに追ったムービーは不思議な力強さに満ちたもの。許可を得てモニターをスマホで撮影した映像に、既存の曲を乗せて編集してみた結果、「工業×音楽」という汎用性のあるフォーマットへと結びつきました。
INDUSTRIALJP は、単発のコンテンツで終わらせるのではなく、プラットフォームを音楽レーベルにして、音楽ダウンロードサイトOTOTOYや、ストリーミング番組DOMMUNEと連携。YouTubeにシリーズ化したミュージックビデオをアップして、若い年齢層や海外のユーザーにアプローチしていきます。
メカニカルでミニマルな没入感の高いMV
製作チームは、従業員の「何のために電通さんがこんなことを?」といういぶかしげな視線の中、スタジオやステージから離れた、いわゆる「外」の環境でそこにある音を録音するフィールドレコーディングの手法で工場内の音を録音し、数々の映像を丁寧にサンプリング。映像の特色にマッチしそうなビートメーカーをそれぞれピックアップしてリミックスを依頼し、映像と音が見事にシンクロした没入感の高いMVが次々と完成されました。
それでは実際に、工場音楽のインダストリアルな映像と音の世界を体験してみてください。
五光発條 × Sountrive「GOKO BANE」
円形のマシーンが正確に回転しながら、小さなばねができていく様子は製造機械の美の極致。快感の映像とグルーヴです。
岩佐歯車製作所 × Inner Science「IWASA HAGURUMA」
ゆっくりと回転しながら、大量の機械油をかけて徐々に削られていく歯車。したたるオイルや飛び散る火花のモーションをアンビエントな音楽が美しく包みます。
浅井製作所 × Dorian「ASAI NEJI」
無数のねじが舞うさまと、マシーンの動きにシンクロした映像エフェクトとビートがドラマチック。緻密に計算された音楽の構成が素晴らしい。
坂本製作所 × Cherryboy Function「SAKAMOTO Metal」
マシーンのきしむ音や切削音が巧みに活かされたトラックが、とにかくクールで気持ちいい。
ADC賞をはじめ多数の受賞とアナログリリース
INDUSTRIALJP は、「東京ADC賞2017」グランプリ、「カンヌライオンズ2017」ブロンズ、「NY ADC2017」ブロンズ、2017年度グッドデザイン賞など、多数のアワードを受賞。
東洋化成を取り上げた第8弾となる「DJ NOBU x 東洋化成」の音源は、限定7インチの初のアナログ盤としてリリースされました。2017年にソニー・ミュージックエンタテインメントが、グループ会社にレコード製造設備を導入し自社生産を復活させるまで、東洋化成は長い間日本で唯一のアナログレコード製造会社でした。
電通がクリエイティブを結集し、日本の町工場や中小企業をアピールするINDUSTRIALJP は、非常に価値のある取り組みだとおもいます。日本になくてはならない3Kで知られるそのほかの業種にも、クリエイティブパワーが波及していってほしいものです。