世界最大級のアート・フェアなのに、超閉塞的なアート・バーゼルのお話

黒木杏紀2018/06/26(火) - 10:27 に投稿
世界最大級のアート・フェアなのに、超閉塞的なアート・バーゼルのお話
Art Basel in Basel 2018 ©Art Basel

 

アート好きには言わずと知れた「アート・バーゼル」。

1970年から始まったスイス北西部の都市バーゼルで毎年開催されている世界最大規模のアートフェアです。先日617日に第49回目のアート・バーゼルバーゼルが終了しました。

世界の290のトップギャラリーが参加、出品作家数4千人、メインのギャラリー会場では絵画、彫刻、写真、インスタレーション、パフォーマンスやビデオアートなどのジャンルから20世紀と21世紀の様々な話題のアーティストの作品が紹介され、来場者は約95,000人。この春3月開催のアート・バーゼル香港では約80,000人、去年12月にアメリカで開催されたアート・バーゼルマイアミでは約82,000人の来場者数ですから、それぞれが単体で超大型イベントといえるでしょう。

このように本家本元のバーゼルだけでなく、香港、マイアミでも入場者数が格段に多い、そんな人気の高いアートフェアですが、実は閉鎖的な催しだというのはどれくらいの人がご存知でしょうか。

「そんなに来場者が多いのに閉鎖的ってどういうこと?」と不思議に思うことでしょう。その理由を説明していきます。

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Art Basel in Basel 2018 ©Art Basel

 

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Mitchell Innes and Nash Art Basel in Basel 2018 ©Art Basel

 

アート・バーゼルは

専門家とコレクターのためのもの

 

アート・バーゼルとはいったいどんな人たちで構成されているのでしょうか。

まずはアーティスト、次にギャラリスト、アートコレクターですね。作品を作る人、売る人、買う人がいて、アートマーケットが成立します。コレクターたちにとって世界で最も影響力を持つギャラリーがこぞって参加するアート・バーゼルはとても魅力的です。

参加するギャラリー名やメインとなる作家名は数か月前から順次発表されていきます。

そしてアート・バーゼルがアート・バーゼルたるのは、そこに「観る人」が加わるからです。ここでいう「観る人」というのは、すなわち主要な国際的芸術機関のトップや学芸員、世界的にも影響力が高い各種アート財団の代表やディレクター、国際的に活躍するキュレーターなどを指します。いわゆるアートの専門家たちです。

実際、アートフェアが始まった直後に発表される速報(ニュースリリース)では、VIPプレビューで参加ギャラリーがどのような実績を上げたのか、どの所属のどんな人たちが足を運んだのかが必ず記されます。彼らの参加は重要事項だからです。この定期的に開催されている世界最大級のアートフェアは、世界中のアート関係者の社交の場ともなっており、アートのスペシャリストたちが会場に華を添えているのは間違いありません。

アート・バーゼルは本質的には専門家とコレクターたちのためのアートフェアなのです。

 

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Mary Mary Ektor Garcia Art Basel in Basel 2018 ©Art Basel

 

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Galleria Continua Nedko Solakov Art Basel in Basel 2018 ©Art Basel

 

アート・バーゼルの厳しい参加基準

 

ギャラリーがアート・バーゼルに名前を連ねるのには高いハードルを乗り越える必要があります。発表はされていませんが数百万円はくだらないフェア出展料、作品の輸送費、宿泊代、交通費、食費などかかる経費は想像以上です。相当力のあるギャラリーでも採算が合わなければエントリーすら困難。

その上、約300前後のフェア出展の枠に世界中から1000を超えるギャラリーの申込みが殺到し、参加するための厳しい選定基準が設けられています。毎年常連で参加しているギャラリーですら来年も参加できる確実な保証はありません。

だからこそアート市場において最高レベルのフェアといわれ、そこに参加することがギャラリーやアーティストたちにとってステイタスになり得るのです。

そしてその基準の高さはすべての参加者にとってフェアに対する大きな期待感につながっていきます。

 

参加できるのは

招待されたアートコレクターのみ

 

このアートフェアには招待されたアートコレクターでないと参加できません。

もう少しかみ砕いて言うと、アートフェアそのものは料金さえ支払えば入場可能ですが、もっとも重要なイベントはVIPと認められた人しかアクセス(入場)できないようになっています。

VIPというのはもちろんアート作品のビッグコレクターたちのことです。

 

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VIP Program Art Basel in Hong Kong 2018
様々なVIPプログラムが数多く記載されている。会場で入手可能。情報量が多いので参考になる。

 

アート・バーゼルともなればメイン会場だけでなく、期間中は地元のアート関連の施設、国際機関での様々な関連プログラムやイベントがあり、街中の主要ギャラリーなどでもオープニングやレセプションパーティなどが数多く開催されます。そしてVIP限定の会場や催しも多々あります。

主催者やギャラリーの立場からすれば、世界中から集まってくる有力なアートコレクターたちと接点を持つチャンスなのですから当然のことといえるでしょう。

他にも会場内をゆっくり見るためのVIP専用の日程(プレビュー)や時間帯が組まれたり、コレクター専用のラウンジも用意されていたり、会場内のガイドツアーも毎日定期的に行われています。メイン会場から離れた場所でのイベントや展覧会へはVIPツアーが組まれ、シャトルバスが定期的に運行しています。

世界最大級、最高峰のアートフェアでありながら、だからこそアート・バーゼルが閉塞的である理由がお分かりいただけたでしょうか。

 

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アートバーゼルブック(図録)
YEAR46は2015年度当時のもの。VIPカードの所有者だけに配布。前年度の3会場のアートフェアの詳細や写真が掲載されている。A4サイズ、厚さ5.5cm、重さ2.8kg!!購入すると日本円で約8,000円。

 

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Metro Pictures Nina Beier Art Basel in Basel 2018 ©Art Basel

 

今年の春、

アート・バーゼル香港へプレスとして行ってきました。

最初の頃は勝手がわからず、観ることだけで精一杯でしたが、3回目にして、ようやく記者発表やレセプションにも参加するなど、回数を重ねたことで周囲の様子も見えるようになり、捉え方も随分と変化してきたところでした。

日本のアートフェアではメディア関係者に対してVIPと同等に近い対応をしてくれることが多く、その感覚でいたのですが、アート・バーゼル香港では違っていました。誰がお客様なのかそうでないのか、もっとシビアな言い方をするとお金になるかならないか、その線引きがとてもハッキリとしています。メディア関係者への対応とアートコレクター(ギャラリーも主催者側にとっては顧客です)へのサービスは徹底して分けられていました。

そもそも、宣伝しなくともどの会場も来場者は嫌というほど来ますし、売上をあげていくのであれば、来場者数を増やすよりもターゲットを絞っていく方が効果的なところまで来ているような成熟したアートフェアです。

メディアの力は必要ないとはいいませんが、期待されているのはこれから経済力を身に付け顧客になってくれそうな若い世代の潜在層への働きかけや長期的なブランド戦略といえます。

誰が来ても楽しめるアートフェアを目指したのではなく、誰を顧客とするのかをしっかり見極めてサービスを徹底的に追及した結果、現在のアート・バーゼルの地位を確立することができたのです。

確かに閉鎖的な要素も多分にもあるかもしれませんが、例えVIPでなくても足を運びそこで得られる経験は計り知れないものがあります。来年もアート・バーゼルへ行くかと聞かれれば答えは「YES」です。

おりしも来年はアート・バーゼル50周年記念、またどんなアートフェアになるのか期待が大きく膨らみます。

 

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Art Basel in Miami Beach 2017 ©Art Basel 直近のアート・バーゼルは12月開催のマイアミ・ビーチ。

 

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303 Gallery Art Basel in Miami Beach 2017 ©Art Basel

 

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Galerie nächst St. Stephan Rosemarie Schwarzwälder, Meyer Riegger Daniel Knorr, Navel of the World, 2017  Art Basel in Miami Beach 2017 ©Art Basel

 

次回開催

 

■アート・バーゼルマイアミ 2018
日程:2018年12月6日(木)~12月9日(日)
アート・バーゼル香港 2019
日程:2019年3月29日(金)~3月31日(日)
アート・バーゼルバーゼル 2019
日程:2019年6月13日(木)~6月16日(日)

Art Basel:https://www.artbasel.com/

 

アート・バーゼルバーゼル 2018 フォトギャラリー

 

アート・バーゼル香港 2018 フォトギャラリー

 

アート・バーゼルマイアミ 2017 フォトギャラリー

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