北川健次:黒の装置―記憶のディスタンス

ARTLOGUE 編集部2018/08/02(木) - 20:05 に投稿

北川健次(1952–)は1970年代に銅版画家として作家活動を開始し、写真製版によるエッチング(フォトグラビュール)を主な技法として用いて、独特の緊張感や高い精神性をまとった作品を作り出してきました。作家の詩的想像力(ポエジー)と銅板という金属とのせめぎあいの中から立ち上がってきたかのような濃密かつ硬質な画面は、駒井哲郎(1920–1976)や棟方志功(1903–1975)、池田満寿夫(1934–1997)といった日本を代表する版画家たちの称賛を早くから受け、彼の名を広く世に知らしめました。

その後、彼は版画制作からいったん距離を置き、「ポエジーの形象化」ともいうべき方法論を新たなメディアを通してより先鋭化するため、1980年代からオブジェ、1990年代からコラージュ、2000年代から写真といった新しい表現領域を切り拓き、さらには美術作品にとどまらず詩作や評論にいたるまで、その活動は大きな拡がりを見せることとなりました。

いっぽう版画にも、こうした拡がりから逆に触発を受ける形で1990年代半ばから再び本格的に取り組み、版画集の形式を中心に旺盛な制作活動をおこなってきました。卓越した技巧メチエによりイメージの濃密さや強度をいっそう増した、「二次元のオブジェ」ともいうべき相貌の作品は銅版画の新たな境地を示すものとなり、2008年にフランスで開催されたアルチュール・ランボーを主題とした展覧会にピカソ、ミロ、ジャコメッティ、ジム・ダインらとともに日本人作家として唯一選出されるなど、国際的にも高い評価を得ました。

このように多面体的宇宙を形成してきた北川健次の創作に共通しているのは、観者の内面に働きかけて記憶表象や想像力を喚起する「装置」として作品を捉えるという思想であり、これを自身の表現活動を貫く通奏低音として意識しながら、彼はさまざまなメディアを横断してきました。

本展では北川健次の硬質に輝く多面体のような創作の中から、その原点である銅版画を中心に、近年の表現の中心であるオブジェを加えた代表作を展示し、彼の作品世界をご覧いただきます。この展覧会が多くのかたにとって、自らの内面に潜むイメージを呼び起こし想像力をかき立てるような、魅惑的な視覚体験となることを願ってやみません。

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